CHIE
NAKAGAWA
中川 知恵
立教大学異文化コミュニケーション学部卒。
在学中に、東京学生英語劇連盟で舞台監督を経験したことがきっかけとなり
舞台づくりを開始。
◉主な活動経歴
・2017 年 6~8 月 演出家小池博史の演出助手としてタイにて
アジア各国のアーティストと舞台「マハー バーラタ第 4 章」の 2 ヶ月の滞在制作とツアー(チェンマイ、バンコク、東京)を経験。
・2019 年 8 月 菜食主義と宮沢賢治を題材とする舞台「主義を食らう」企画・作・演出。
・2020 年 2 月 自らが 2017 年に立ち上げた渋谷ユニバーサル・ミュージカルにおいてブロードウェイミ ュージカル「IN THE HEIGHTS」企画・演出。
演劇・舞踊・ミュージカルなどジャンルに捉われない作品づくりを目指す。
立ち上げた,というよりは
始まってしまった
---ミュージカルや舞台との出会いはいつだったのですか?
小さい頃から舞台の存在は近かったように思いますね。
4歳から17歳までクラシックバレエをやっていました。今でも覚えているのは、最初の稽古でタイツとバレエシューズを履くのが嫌で大泣き。発表会ではお化粧が嫌でお母さんを困らせる。
でも、劇場の空気そのものが好きでした。
発表会前になると照明スタッフさんが稽古場に見に来て打ち合わせをしている様子も好きだったことを鮮明に覚えています。
それに、親と一緒に頻繁に舞台を観に行っていました。母のいとこが舞台女優をしていたのですが、小さい頃観た「ハムレット」の最後のシーンで刺されて倒れた役者さんのお腹が動いていることが不思議で。楽屋で質問して困らせたのを覚えています(笑)
---そこに目をつけるとは鋭い(笑)そんな舞台が好きな知恵さんが、舞台を創る側になり、渋谷ユニバーサルミュージカルを立ち上げたきっかけを教えて下さい!
そうですね、立ち上げたというよりは”始まってしまった”、という言い方のほうがいいかもしれないです(笑)
その原点はけっこう遡るのですが、私が大学1年生の時から参加していた東京学生英語劇連盟、通称MPでの経験が大きいです。年に1度、100人以上の学生が集まって、3ヶ月かけて舞台を作り上げていくという経験を通じて、劇を作る面白さを身を持って感じていました。大学3年になるまで、計3回いろいろな形で関わっていました。
最初の1年目は音響スタッフをやり、裏方で舞台を作る楽しさを知りました。2年目は演出家はどういうことを考えているのか?というところに興味が湧き、もっと近くで彼らの言葉を聞きたいと思って、演じる側のキャストに。そして、3年目はこの両方の経験を活かせる舞台監督をやらせていただきました。
「こういうのがやりたかった!」
歌の持つ力に魅了される
---12月の渋谷区のホールでのコンサートを通じて、新しい発見などはありましたか?
ありましたね。端的に言うと、「歌の持つ力」を舞台を創るプロセスで再発見したように思います。著作権の問題で「RENT(レント)」はできなかったのでコンサート形式に変えたのですが、より多くの人を巻き込むという目的がありました。
ただ、お客さんを巻き込んで楽しんで終わり、というわけではなく、しっかりと歌の持つメッセージ性をお客さんに伝えきりたいと考えていました。どうやったら伝わるんだろう…と思い詰めていたとき、音楽に乗せることでメッセージがスッと入ってくるんじゃないかな、って気づいたんです。
そこで、いかに上手く歌うか、という技術的な部分を磨くだけでなく、歌詞をもう一度深く考えようという話し合う機会を設けました。
ひとりひとりの人生と歌詞がリンクするその瞬間が生まれた時、「こういうのがやりたかった!」という感覚を覚えました。
歌うときにも歌詞の意味を考えること、そして感じることをやめないようにしようってメンバーで決めたんです。
---今回のミュージカル「イン・ザ・ハイツ」でも、歌は大事な要素になっていると思いますが、歌にはどのような想いがありますか?
今回の劇である「イン・ザ・ハイツ」の中でも、やはり歌は本当に大切な要素で。というのも、ほとんどのシーンが歌で構成されており、しかもラップが多用されます。
ラップというこれまでのミュージカルにはなかった手法を取り入れた意味でも、この作品は画期的。
普段なかなか言えないセリフや、ちょっとくさいメッセージも、歌にするとまず役者が気持ちを乗せやすくなる。そして、その言葉がお客さんにも入ってきやすくなるなと思うんです。
ミュージカル特有の、突然歌い出すあの切り替えに違和感を感じるお客さんもいると思います。私もその気持ち、とても分かります(笑)分かるからこそ、キャストの中で、想いが生まれて歌うまでの気持ちの動きに飛躍がないように、しっかり感情のグラデーションを意識してつくりたい。それを、稽古の段階からメンバーとディスカッションで深めていきたいですね。そして、歌のメッセージがお客さんとの経験とも紐づくことが、舞台の醍醐味でもあると思います。
---そんな歌がつまったミュージカルですが、最終的にどのようなものを作りたいと考えていますか?
閉幕後に、観ている方に”考える余地”を残すミュージカルを創りたいです。でもその想いを持っている一方で、実は私の中に、シンプルにミュージカルを大好きと言い切れない自分もいるんです。
どこかで冷めた目で観てる部分もあって。きっとミュージカルというものが、ただの華やかなコンテンツとして受け取られてしまうことに違和感があるんだと思います。
ハッピーなオーラが出ているものだけど、お客さんが「楽しかったね」で終わるようなものだと物足りない。ストーリーのどこに何を感じ取ったのか。「なんでこういう場面が好きなんだっけ?」「あの時、どういう感情だったんだろう?」と、作品のメッセージをもう一度考えさせるような、お客さんの心に「?」を残すようなもの、そしてその「?」がお客さんそれぞれの心の中何かと結びつき「!」と、気づきに変わる瞬間が詰まったミュージカルを作りたいです。
別軸のゴールを
作れる場所でありたい
---知恵さんにとって、自分を突き動かす原動力は?
高校で留学したときも、MPでの体験も、そこから生まれたユニミュも、全部私を動かしてくれたのは「人」なんですよね。
一緒にいると疲れることもある、でも改めて捨てたもんじゃないと思わせられる存在です。
最初この団体を立ち上げたときは、何がしたいんですか?って言われることもありました。団体のビジョンが定まらないまま、走り出した中で、オーディションを受けて参加してくれた人は、本当に勇気があると思います(笑)声をかけた先で、また声をかけてくれる人がいて、どんどん輪が大きくなって。「よくわからないけど、楽しそう!」と飛び込む大胆さと感性を持っている人が多いです。メンバーは社会人も多くて、みんな忙しい中時間を縫って協力してくれています
---ユニミュをどんな場所にしたいですか?
仕事してるけど、歌も歌いたい。今の日常に、もっと熱狂できる空間を作りたい。
そんな想いが再燃する場であり、その想いに対して「試しにうちでやってみる?」くらいの寛容さがあるといいなと。
関わってくれる人自身が、日常とは別軸のゴールを作れる場所でもありたいと思っています。
心が動かされた人たちとのゆるやかなつながりが、また次のパフォーマンスを作るエネルギーになるんですよね。
挑戦したいことがあれば、ぜひ来てほしいです!
---別軸のゴールを作れる場。いい言葉ですね!では、最後に一言お願いします!
今回のミュージカルでは、「気づき」を大事にしたいと思っています。
日常の中で気づきが生まれた後って、その気づきの大小にかかわらず今まで観ていた景色が少し変わる気がするんです。
そういう気づきが、関わってくれるスタッフやキャストの人、そして観客の皆様の中に、たくさん生まれる舞台を創っていきたいです。
イン・ザ・ハイツは、南米系移民が多く住むNYマンハッタンの北西部ワシントンハイツで3日間のうちに起こる様々な出来事を描いています。
日常の中で、若者たちが葛藤し、夢を描き、挫折して、また続いていく明日を生きていくその姿に、私たち自身との共通点もあると感じています。
社会に出る転機を迎えていたり、大学院に進んだりと人生の転機を迎えている中で、今の私たちにしかできない作品を創りたいと思っています。楽しみにしていて下さい!
---知恵さん、ありがとうございました!